第1章

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 草鞋はがはははと笑う。彼は裏道の塀の真下に赤外線センサーを仕掛け、宮路家の孫がセンサーに引っかかったのを聞いて現場に駆け付けたのだ。ちなみにそれまで彼が潜んでいたのは札所家の庭なので、自ら説明に訪れるのは当然の義務だ。 「……待ってください、所長。数万円て、大極貧時代と奈津子さんが語る探偵事務所時代に、それを買って、今まで死蔵してたんですか」  巡はふと気になって尋ねた。草鞋はきょとんとして「そうだが?」と答える。  巡は今、自分がバイトしている便利屋AIAIの経理がどうなっているのか、急に不安になった。自分の給与の未払いは今までないが、だからといって草鞋が探偵事務所時代のようにいらぬ機器を買っていないと誰が言いきれるだろう。 (奈津子さん、大丈夫ですよね……?)  巡は奈津子の管理能力を信じた。彼女がいながら、大極貧時代に赤外線センサーが購入されていたという事実には気づかないふりをして。 (おわり)
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