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「私、忘れないから」
貝殻をぎゅっと握りしめ、私は言う。
「私、凪のお母さんのこと、絶対忘れないから」
「……うん」
凪がうなずいた。私の前で。そして私の顔を見つめて言った。
「ありがと。莉子」
おばさんがいなくなって、あの家が変わっていって。新しい家族の中で、凪はこれからも生きていく。
だけど凪のお母さんは、いつだって私たちの心の中にいる。思い出すのも、忘れないのも、いけないことじゃない。
「あとでひかりやのとこ、こいよ」
凪の声に顔を上げる。
「引退祝いにアイスぐらいおごってやるから。あ、高嶺も連れてこいよ。絶対な?」
凪がそう言って歩き出す。私はその背中を見送る。何度も何度も名前を呼んだ、その背中を――。
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