82人が本棚に入れています
本棚に追加
/237ページ
「りーこー!」
突然後ろから、千佳が抱きついてきた。
「な、なによぉ」
「こんなところにふたりきりで、こそこそしちゃってー。もしかしてデートの約束?」
千佳が私の顔をのぞきこみ、にやにや笑っている。
「そんなんじゃないよ。付き合ってないし」
「えー? まだなのー? さっさとコクっちゃえばいいのに!」
「そ、それは……した」
そう言ったあと、あの日のことを思い出し、急に恥ずかしくなる。だけど凪は私が口走った「好き」って言葉に、いまだに何も返してくれない。もしかしてあれは凪にとって、忘れてしまいたいことなのだろうか。
「え、したの? なのに付き合ってない? もー、どういうこと?」
じれったそうにぶつぶつ言っている千佳を残し、私は歩き出す。
「やっぱり凪くん、高嶺っちに遠慮しちゃってるのかな……」
千佳の声が胸に残る。
遠くで高嶺が呼んでいる。私は千佳の手を引き「行くよ!」と言って走り出す。
空は青く晴れ渡っていて、どこまでも高く果てしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!