12歳・9

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 ベッドの上に私を残し、凪のお母さんが部屋を出て行った。階段をとんとんと降りる音がして、お店でお母さんと何か話している。  やがて弟の寛人の「凪、また遊ぼうなー」って言う声が聞こえて、お母さんたちの話し声も消えた。  凪の声は、一言も聞こえなかった。  静まり返った部屋の中、私はもう一度、首からかかった貝殻を手にのせる。  そしてそれをそっと握りしめたあと、部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。 「莉子?」  店にはまだ、お母さんと寛人が立っていた。 「何やってんだよ、姉ちゃん。凪、行っちゃったぞ?」 「知ってる」  私は靴を履くと、店の中を通り抜け外へ飛び出した。
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