12歳・9

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「凪……」  小さくつぶやいた私の前で、凪がゆっくりと振り返った。 「莉子」  凪の唇がそう動く。私は凪のそばに駆け寄る。  胸がすごく、苦しい。  私が凪の前で立ち止まると、凪はうつむいた。そしてか細い声でぽつりとつぶやく。 「……ごめん」  涙が出そうだった。 「ごめん。引っ越しすること、黙ってて……」  私は涙をこらえて、首を横に振る。 「凪……あのね……」  うつむいたままの凪に言う。どうしても、伝えておきたいことがあった。 「運動会のとき……嬉しかった」  凪が私に言ってくれた。 『莉子! 走れ! 俺のとこまで!』  だから私は走れた。凪のところまで。 「ありがとうね。凪」  私より身長の低い凪が、ゆっくりと顔を上げる。目と目が合って、恥ずかしくなる。だけど今日は目をそらさない。そして凪もそらさなかった。
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