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「じゃあ……」
消えそうな声でつぶやくと、凪は勢いよく走り出した。私はあわてて、その背中に声をかける。
「凪っ!」
けれどもう、凪は私に振り向いてくれない。
雨上がり。水たまりを蹴飛ばす青いスニーカー。オレンジ色の光がきらきら反射する。
凪の乗った車が走り去った。
私は突っ立ったまま、そっと頬に手を当てる。その場所だけが、すごく熱い。
――凪が……私にキスをした。
心臓がドキドキして、どうしたらいいのかわからなくなった。
『心の中で想い続ければ、きっと願いが叶うおまじないよ』
さっきのおばさんの言葉が頭をよぎり、私は胸の貝殻をそっと握る。そして目を閉じて、心の中で願う。
――いつかまたここで、凪と会えますように。
私の願いは――きっと、叶う。
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