12歳・9

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「じゃあ……」  消えそうな声でつぶやくと、凪は勢いよく走り出した。私はあわてて、その背中に声をかける。 「凪っ!」  けれどもう、凪は私に振り向いてくれない。  雨上がり。水たまりを蹴飛ばす青いスニーカー。オレンジ色の光がきらきら反射する。  凪の乗った車が走り去った。  私は突っ立ったまま、そっと頬に手を当てる。その場所だけが、すごく熱い。  ――凪が……私にキスをした。  心臓がドキドキして、どうしたらいいのかわからなくなった。 『心の中で想い続ければ、きっと願いが叶うおまじないよ』  さっきのおばさんの言葉が頭をよぎり、私は胸の貝殻をそっと握る。そして目を閉じて、心の中で願う。  ――いつかまたここで、凪と会えますように。  私の願いは――きっと、叶う。
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