12歳・1

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 マンションの中に入っていく高嶺の姿を見送ってから、私はまた歩き出す。  すぐに見えてきたのは、凪の家だ。一戸建ての凪の家の庭には、花がたくさん植えてあって、とても綺麗だ。私はよくここで立ち止まっては、季節ごとに変わる庭の景色を眺める。  ときどき、ガーデニングをしている、凪のお母さんに会うこともある。凪のお母さんはいつもにこやかに「莉子ちゃん、おかえりなさい」と声をかけてくれる。  ああうちにも、こんな素敵なお庭があったらいいのに、といつも思うけど。  凪の家の先にある私の家は、「穂積釣具店」という小さな釣具の店をやっていた。  道路に面したお店の裏に台所と和室があって、二階に私と弟の部屋がある。どこも狭くて古くて庭なんてないし、お父さんとお母さんが交代で店番をしているから、ガーデニングしている暇はないらしい。  私と凪は、ずっとここに住んでいる。生まれたときから、ずっと。  ふと、さっきの凪の態度を思い出し、ため息をつきながら家に帰る。 「ただいまぁ」 「おかえり」  店番をしているお父さんが新聞を読みながら言う。今日も店は暇そうだ。潰れちゃったらどうしようと、ちょっと心配になってしまう。  もう一度ため息をついて、店の中を通り過ぎ、一番奥で靴を脱ぐ。  そのとき私は気がついた。そこにあの青いスニーカーが、行儀よく揃えて置いてあることに。
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