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「凪?」
慌てて部屋に駆け込むと、凪が居間の畳に座って、私の弟の寛人とテレビゲームをしていた。
「凪っ! あんた何やってんの!」
「あ、おかえり、姉ちゃん」
コントローラーを動かしながら振り返った寛人の隣で、凪も振り向く。
ひとつ年下の寛人と凪は、同じくらいの背格好だ。こんなふうに並んで座っていると、私も時々間違えてしまいそうになる。そのくらい我が家に馴染んでいるんだ、凪ってやつは。
「練習お疲れ、莉子」
悪びれた様子もなく、凪が言う。
「お疲れじゃないよ。練習サボってゲームなんかして!」
「あら、莉子。おかえり。遅かったのね」
台所からお母さんが顔を出す。今日はカレーだな。食欲をそそる、美味しそうな匂いが漂ってくる。
「ちょっとお母さん。なんで凪がいるのよ?」
「ああ、凪くんのお母さんね、親戚の方が急に入院することになっちゃって、病院に付き添っているのよ。帰りが遅くなるから、うちで待っててって」
「そういうこと」
凪がつぶやいて、またテレビに視線を戻す。テレビに映っているのは、最近凪と寛人がはまっている格闘ゲームだ。寛人が「わー」とか「ギャー」とか「やられたー」とか言って、いちいちうるさい。
「凪くん。ご飯食べていくでしょう? おばさんカレー作ったから」
「やった! 今日カレーか! 凪、食ってくだろ?」
寛人が嬉しそうに凪に言っている。昔から寛人は凪のことを、実の兄のように慕っているのだ。
「うん。俺もおばさんのカレー、大好き」
凪の声がする。私は凪の背中を眺めながら、イライラしていた。
どうしてだろう。最近凪に腹が立って仕方ない。
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