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街を映す鏡を踏んでは毀して駅へと歩いて居ると、前から来た誰かが足を止めて、私の傘を叩く。
傘を上げて、わたしは彼を見上げる。
「帰ったんじゃなかったの?」
「ロッカーにパスケース忘れたらしくて、馬鹿ですよね」
その割に嬉しそうに彼は笑う。
「来た時と、同じだ。……会社に初めて来た時と」
「は?」
「俺ほんとダメなんです。こういう時。初出社とか、今日みたいな環境変わる時?ぽかっとミスしたり、道間違えたり。前からそうで」
「……別に、あるでしょ。そういうの誰でも」
「そうだけど、やっぱり落ち込むじゃないですか。だから、あの時も綾瀬さんに会えて、心配してもらって、色々教えてくれて嬉しかったし、……今も、俺こんなんで向こう行って大丈夫かなって落ち込んでたんで、会えて良かった」
「……何の役にも立たないと思うけど」
「そんなことないです。あと、この前は強引なことしてすみませんでした。……それじゃ」
軽く頭を下げた彼の傘の中に、自分のを閉じて私は入り込んだ。
遮るものが無い状態で、わたしは彼を見上げる。
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