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彼女は珍しいものでも見つけたように眼鏡を眉間に押し上げる。
「なんで今その話を?」
「……別に意味は無いけど。彼異動になったって聞いたから、ふと思い出して」
「それなら去年の暮れに終わってますよ」
「……あ。そう」
「それだけですか?」
石田はまじまじと私の顔を見る。
「うん」
「……一応補足するなら、付き合ってる人は居ないけど、好きな人が居るから、って彼言ってたそうですが」
「ふーん……」
「綾瀬さ」
石田が何か言おうとした時、課長が戻ってきた。
「綾瀬さん。この先月の仮払いなんだけど」
「あ、はい」
彼女はまだ何か言いたげで、その日の業務が終わってから私に言った。
「花村君の件ですが、……鈍いのもそこまでこじれるとどうかと思います」
「は?」
「あたしは恋愛は得意分野じゃ無いので自分で考えてください。今日学校なのでもう失礼します」
簿記やPCスキル、様々なスクールに通う彼女は、年下ながら既に実力も情報網も私を超えた立派なお局だ。その彼女の言葉には妙な重みがあった。
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