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商店街を並んで歩きながら、私は言った。彼にぶつけないように、傘は少し反対側に倒しながら。
「花村君は、ここ長いの?」
「大学卒業して就職してからだから……4年?」
「そっか」
「二、三年したらまたこっちに呼び戻すから、って営業部長には言われましたけど」
彼の声は少し寂しげに笑っているようで、評価されてのこととはいえ、家も職場も変わるのは不安で当たり前だ。
「綾瀬さんは?一人暮らしなんですか?」
「ううん。実家」
「そうですか。……そんな話すら、したことなかったですね」
「だから、不思議だった。なんでいきなりデートとか言い出したのか」
そんなに降っているようには見えないのに、歩いているとストッキングの脚にぽつぽつと雨が当たって、冷たく染み込んでいくのを感じる。
考えるような間があって、声が降ってきた。
「あの、覚えてるかわかりませんけど……僕が入って割とすぐ、綾瀬さん夕飯に誘ったことあったんですけど」
「あったっけ?」
彼は溜息をついて、言った。
「ありました。先輩に連れて行ってもらったラーメン屋が美味しかったから、一緒に行きませんかって」
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