1/2
222人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

   花村が入社してきたのは去年の今頃で、初めて会ったのもこんな雨の日だった。  出勤途中、わざわざ屈んで傘の下を覗き込む男が居て、なにかと思ったら 「すみません。ちょっと道をお聞きしたいんですが」 一度面接に来て採用になった会社への道が分からないと言う。  そんな阿呆を採る会社があるのかと思ったら、うちだった。  その後の道すがら、あれこれと会社の人間関係や予備知識をなるべく主観は交えずに叩き込んだのは、コイツ大丈夫かと心配になったからだけど、蓋を開けてみたら礼儀も正しく上司の覚えもめでたい、私よりよっぽど優秀な社員だった。  それからは、私は経理、彼は営業と、接点が無いわけではないけれど、それほど親しく話すことはなかった。はずなのだが。 「あのさ、石田」 「何でしょう。綾瀬さん」  昼休み。同じ経理の頼れる後輩に、食後のチョコレートをひとつ分けて私は小声で言った。 「営業で、花村のこと好きだって子居たでしょ。あれどうなったか知ってる?」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!