今昔失恋記

1/25
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

今昔失恋記

 梅雨の季節の、珍しい五月晴れの日で、湿っぽさは一つもなかった。大往生の故人の門出に相応しい。  百歳の曾祖母――廉子(れんこ)さんの思い出話に花が咲き、葬儀場は賑やかだった。彼女のひ孫である蓮子(はすこ)も、悲しみで涙を流すよりは、集まった親戚たちと話をして、曾祖母を偲んだ。  おばあちゃんもお母さんも、なぜだか彼女のことを、廉子さん、と呼んでいた。蓮子もそれに倣って、廉子さんと呼びかけた。不思議とひいおばあちゃんというよりは、廉子さんと呼びかける方が、シャボン玉のように軽やかな彼女に似合っていたからだ。  祖母は苦労人だし、母もキャリア・ウーマンでバリバリ仕事をしてきた人なので、蓮子は二人にはない廉子さんの雰囲気が大好きだった。  その廉子さんのため、蓮子は制服をクリーニングに出し、赤みがかった髪をポニーテールにまとめ、パウダーで肌を整えた。最近なおざりになっていた、身だしなみをしっかりと整えると、参列時に気持ちが晴れた。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!