387人が本棚に入れています
本棚に追加
三十分後、水樹さんは修理スペースから出てきた。
私の前にしゃがむと、手にしたパンプスを裏返して見せる。
「トップリフトを取り換えたよ。部品の在庫があって良かった」
「ありがとうございます」
パンプスを履いて椅子を立とうとすると、彼がそれとなく手を取り、支えてくれる。
指先を少し借りただけなのに、とてつもない安定感だった。
「違和感は?」
「ありません。大丈夫です」
水樹さんは微笑み、エプロンを脱いだ。
水色のワイシャツが、彼の爽やかなイメージを際立たせる。私はまたしても彼の姿に吸い込まれた。
そして、ネクタイの結び目を直す仕草を見るうち、初めてあることに気が付く。
結婚指輪をしていない――
最初のコメントを投稿しよう!