冬の七夕

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 そっと忍び足で階段を上った。  屈んだまま一歩一歩、静かに足を下ろす。よく見れば掃除の行き届いていない汚い床ばかりだ。細かな埃に小さな砂利、丸められた紙屑までが所々に落ちている。いつも、こんなものを注意して目に留めた事はなかった。  すっかり明るいとは言えまだ早い朝の事、こんなに警戒する必要もないのかもしれない。近くに誰もいない事はよく確認した。落ち着いて。しかし、背後や周囲の窓の内に誰かしらの目があるように思えて仕方が無い。スニーカーが砂利粒を踏む音にすらどきりとさせられる。  通路の奥、二十歩ほどの先にはもう目指す目標が見える。吹き抜ける風に冬の匂いが混じっていた。
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