冬の七夕

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 どうしてこう凝りもせずにNを犯人に仕立てたがるのか。Nが弁明に立ち上がった勢いで椅子が後ろ向きに倒れた。 「うわっ」 横の席の男の子が悲鳴をあげて体を仰け反らせる。刃はすんでで顔を躱したようだ。慌てているものだからNの指には鋏が引っ掛けたままでぶら下がっている。  ああ、またこうして一時間が終わってしまう。ぱんぱんときつく手を叩き合わせた。 「や・め・な・さい!」 こういう時はある程度大きな声を出さざるを得ない。そして静まったこの一瞬をしっかりと狙わなければならない。分かりやすい言葉で。はっきり短く。 「Nじゃありません」 しかし、反論は朗々とした声で上がった。教室の大部分がさっと座り直した中、黒髪を長く背に下ろした少女だけがこちらに強い視線を返してくる。 「Nですよ」 始業の号令の通り、はっきりと通る良い声だ。日直の名前も日本式に『黒板』へ書き入れられている。日付とお天気の下だ。『北原直美』 「私、見ました」 どうしていつもこうなるのか。北原直美はいつも意地が悪い。 「Nはそんなことをしません」 「でも、見ました」 「直美!いつも何でそんな事ばっかり言うんだ」 混血の彼女には堅苦しい教科書の日本語で遠慮する必要が実際のところない。しかし、ああ。また怒鳴ってしまった。 「何で信じないんだ!」 直美も負けじと怒鳴り返してくる。 「じゃあ、私が投げたんでいいです。いつもいつもN、N、Nばっかりで先生は本当に悪いです」 他の子供たちはどうしたものかと、とりあえず僕とこの少女のやり取りを見守っている。 またこうして不毛な時間が過ぎていく。授業中に生徒と一対一で喧嘩してるなんて馬鹿丸出しじゃないか。 「皆がNを虐めるからでしょう」 「何それ!先生は本当に馬鹿で最低!」 反射的だった。頭に血が上ったままに教科書を教卓に叩きつけてしまったのだ。それも悪いことに思い切り。
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