冬の七夕

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 語学教育というのは『教育』であって、広義には歴史や文化も教える。そんなわけで週に一回午後の時間を長くとって『日本文化』の時間がある。七月の初めのこと、季節感は違ってもやはり大きな笹が何本も飾られて校内を彩ってくれる。大きな空から昼の明るさが引けば、この土地では驚く程の天の川を見ることができる。  この手の忍耐や沈黙を必要としないものにこそ子供は集中力を発揮する。色紙を切り、折り、貼り合わせて鮮やかな飾り物が山積みになっていく。 『テストで100点をとる』 『家族が幸せでありますように』 『友達と仲良くする』 『サッカー選手になりたい』 これは短冊の方。代表的なお願いは大体こんな感じだ。普段の授業風景が信じられない程に熱心に日本語を書いてくれる。形がまばらにならないよう、短冊だけは前日に僕が用意した。  厳重注意の上で、まだ一応職員室に僕の席がある。面白いのにはこんなのもあった。 『愛がほしい』 これは六年生の男子が書いた。また逆に低学年ではこんなものがあった。 『お兄ちゃんのかぜが治りますように』 結構微笑ましい気持ちにさせてくれるものだ。  学年合同の学習時間だから大きい子供が小さい子供を手取り足取り教える。僕自身にはあまりする事もなく、頼まれれば短冊に書く漢字を教えたり、折り紙を折ってやったりしながらぷらぷらと教室を見て回っていた。
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