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「先輩、お疲れ様です」
たくさんいる部員の中で、何故か修司にだけタオルを渡す女の子。
その女の子に、修司は照れたような笑顔を返しているのが見えた。
その目を見た瞬間、私は気づいてしまった。
私の目に映る風景と、修司の目に映っている風景が、もう違っていることに。
いつの間にそうなっていたのか、私にはわからない。
私の目には、小学校の頃からずっと修司が映りこんでいた。
それは、私にとっては当たり前で、きっとずっと続いていくものだと思っていたのに。
彼の目には、私はもう見えていない。
そう気づいたとき、知らぬ間に、私の目からは涙が溢れていた。
視界が滲んで、何も見えなかった。
修司も、女の子も、他のモノも。私には、何も見えなくなっていた。
今まで彼を特別な存在だと思ったことはなかったのに。一緒にいることが当たり前すぎて、気づいていなかったんだと、そう思った時にはもう遅かった。
きっと、彼の世界からは私がどんどんいなくなるのだろうと思った。
毎朝、一緒に学校に行き、坂道で置いて行かれる。そんな日常も、いつしか彼の隣にはあの女の子が並ぶようになる。そして、坂道でも彼女は置いて行かれることはなく、ずっと隣を一緒に歩いて行くんだろう。
流れる涙と一緒に、私の気持ちも溢れていくようだった。どうして今まで、気がつかなかったんだろう。
涙を拭うこともせず、私はそっと、彼の近くから離れた。
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