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世界は永遠に泣いている。それが続く限り涙はいつしか枯れていく。
争いのない世界は存在しなかった。何度も傷付き合い、痛みを刻み続ける数多の世界。
悲しみが終焉を迎えるとしてもまた悲しみは永遠に訪れる。
今もきっとどこかで繰り返しているだろう。
花で例えるならアリウムギガンチューム。花言葉は無限の悲しみ。
永遠に悲しみが流れるのはもう生きる理由なんてないのだから。
「…」
目の前に広がるそれは個々の心の形。様々な影が咆哮を上げている。
気がつけばここにいた。赤黒い空が地を照らしている世界に。
夕日や月、星さえ存在していない。
己の横をすり抜けるように小さな男の子が走って転んだ。
こちらを見て泣き叫んだ。否、己の背後をみて叫んだ。
己もつられるように背後に振り返ったがそこには何もなかった。
「…」
小さな男の子へ視線を戻すと居なかった。代わりに一輪の花が咲いていた。
花びらは星のような形をしている。己はじっとその花を見つめる。
「…」
またどこからか悲鳴が響いた。
声の主は若いカップルだった。男が女の手を握って走っていた。
女が転ぶと男が駆け寄り女を守るように抱きしめた。
何の前触れもなく花となって消え去ったのだ。
残された女も慟哭を上げ花となった。
己はカップルが消え去った所へ歩み寄ると小さな男の子と同じ花が寄り添うように咲いていた。
「これも運命の楽園。この世界はひとつの結末を辿った」
その声は後ろから響いた。振り返るとボロボロの衣を纏った人が立っていた。フードで深く被っているため顔は見えない。
己は話掛けた。だけど声は通らない。それでもボロボロの衣は答えた。
「君が何を言っているのかわかるよ。まだ悲しみは覆われていない世界はあるよ」
少なくともこの声は少年のような声だった。
「君の言いたいことは分かる。もう諦めよう。誰も抗えないんだから」
表情は見えなくとも目の前の人物も悲しんでいることは分かる。
「僕は君と話すのはここでおしまい。もっと話したかったよ」
目の前の人物は虚空に溶けていった。
何もかもが失った。
世界が溶けていった。
風に吹かれて舞う砂のように。
これが世界の果て。
いや世界の成れの果て。
意識が遠のいた。
この世界に再び幸せが訪れますように…。
そしてあなたの生きる世界にも幸せが訪れますように…。
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