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「男装の麗人というより、彼女の文章は完全に男の文章って感じがしますけどね」
馨の手から本を取り、パラパラとめくりながら槇田が何気なく言うと、馨はくすりと笑った。
「なんです」
「いや、おまえとは気が合うなと思って」
馨は、夕方この部屋で読んでいた短篇集を手に取り、『藏』のページを開いた。
その内容は、狂気の人形作家がこの世で最も妖艶な人形を創るために、娘を蔵に閉じ込め、禁忌を犯し、淫らな日々を送る、というものだ。最後は人形作家が娘の着物を抱いて事切れているところで終わる。
娘がどうなったのかは明確には書かれていない。そもそも娘が本当に存在したのかどうかも曖昧で、解釈は読者に委ねられている。いわゆる幻想怪奇小説といった体である。
「約八年間という短い作家生活の中で、泡影は幾つかの傑作を残したが、どの作品もその根底にあるのは虚無とエゴイズムだ。問題作も多く、彼女は常に賛否両論の渦中にあったが、一方でどこか危ういほどの繊細さを感じさせる作品も少なくはない。中にはまるで子供が書いたんじゃないかと思わせるような無垢な一面も覗かせたりして、それが泡影の文体に独特の透明感を与えているんだ」
甘さを帯びた、少しハスキーな声で淀みなく説明する馨に、槇田はじっと見入った。男にしては繊細すぎる長い人差し指が、ページの角上部を弄ぶように弾いている。
「なに、」
視線に気付いた馨が上目使いに槇田を見た。鼓動が小さく跳ねて、槇田はぎこちなく視線を外す。
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