第二章 消えた麗人

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「これ、何の集まりですか」  決まり悪さを誤魔化すみたいに、ちょうど開いていたページに掲載されている集合写真を指した。ページ下部に、『光年』創刊記念。昭和6年4月とある。 「この年、文芸雑誌『光年』が創刊されて、これはその創刊号に寄稿した作家たちの集まりだ。泡影はこれが縁で北川(きたがわ)宗一郎(そういちろう)と出逢う」 「北川、宗一郎ですか」  十五、六人ほどの集合写真で、前列右より2人目泡影、後列左より3人目北川宗一郎といった説明書きがあった。 「北川はこの当時二十六歳で泡影より五歳年長だ。この前年に寺島(てらしま)淑子(よしこ)という女性と結婚しているんだが、実はこの洋館は結婚後しばらく北川夫妻が住んでいた私邸だったんだ」 「え」  思わぬ事実に馨を見る。 「北川の家は秋田の大地主で、北川は東京帝大進学のために上京。在学中から様々な雑誌の懸賞に投稿し、卒業と同時に当時の有力文芸雑誌『文藝波濤』に、長編小説『彷徨』が掲載されて、それをきっかけにデビューしている」  「読みました。あれを二十歳そこそこで書いたのかと思うと、なんだか底知れないものを感じますね」 「確かにな。その北川が認めたってことは、泡影の才能も生半可じゃなかったってことだろう。北川は温厚な性格だったようだが、文学に関しては非常に厳しい目を持っていた。作家同士の対談集でも、舌鋒鋭い彼の意見は際立っているからな。その北川が、泡影の作品に関しては、おしなべて好意的な意見を述べている」 「そうなんですね」
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