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君子さんは飛び降りてすぐに、自ら祭壇の間に向かい祈り始めた。
君子さんが何を祈っているのか冬弥にはわからない。
事務所に来るたび、祭壇の前にいる君子さんに声をかけた。霊と対話する能力を持つ冬弥だが、これまで一度も君子さんが冬弥の呼びかけに反応することはなかった。
おそらく、君子さんは自分が死んだことにすら気づいていないのかもしれない。だが、このままではいつまでたっても彼女が成仏するために次の段階に進むことができない。
冬弥はつらそうに顔をゆがめ、祭壇の前でひざまづく君子さんを見下ろす。
『君子さん……』
冬弥は祈り続ける彼女の細すぎる肩に手を添えた。
そこで冬弥ははっとなる。
もしかしたら、幽体となった今の自分なら、君子さんの心に触れることができるかもしれない。
彼女が何のために祈っているのかわかるかも……。
冬弥は君子さんの身体に身を委ねた。
彼女の記憶に同調したのだ。
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