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「冬弥立てる?」
「大丈夫です。ひとりで歩けます」
と、言ったそばから冬弥の足下がふらついた。
すぐに輝耶に身体を支えられる。
正直、意識が朦朧として立っているのかそうでないのかも曖昧な感覚であった。
うふふ、と輝耶の笑う声が耳元に聞こえる。
鼻先をかすめる輝耶のきつい香水の匂いに、吐き気を覚えた。
「だめよ、無理しては。あたしが家まで送っておげるわ。誰か、表玄関に車をまわしてきてちょうだい」
『冬弥くん、大丈夫なの? なんかやばくない? 僕がなんとかしてあげようか? それともたっちゃんを……』
『いや、いい……自分で……』
徐々に意識が遠のいていく。
翔流くんの声も最後まで聞くことができなかった。
「さあ冬弥、行きましょうね」
呆然としている拝島を、輝耶は一度たりとも見ることもなく通り過ぎていく。通り過ぎてすぐに、拝島は振り返り憎悪の眼差しを冬弥の背中に突き刺した。
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