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リヒトはアスラに一言断りを入れると、遠くに行かぬように注意を受け、家の外に出た。
昨日はすぐに家に入ったので、家の周りの様子が分からず見て回ろうと思ったのだ。
アスラの家は森の奥深くにあるらしい。木々が囲んでいたが、家の前は、拓けており畑がきれいに耕さていて、野菜か花か薬草か、リヒトには分からないが、色とりどりのものが植えられていた。
どうやら、鳥もいるらしい。家の横からは、元気な鳴き声が小屋とその周辺の柵の方から聞こえてきた。
リヒトは、鳴き声のする小屋とは反対側に家の周りを歩き始めた。そちらは作業場なのか、簡単な屋根の下に切り出した木や、大小の岩なども置かれていた。
リヒトは置いてあった木を手に取り、手頃な岩に腰かけた。
―――――世界を救って、いまいちよく分からない話だな。
それが昨日、アスラに話をきいた率直な感想だった。
だが、アスラの言うように、食べる場所も、行くところも、この国の事も知らぬままでは、行き倒れになるのは目に見えていたし、今までの暮らしを考えたら、アスラの提案は魅力的だった。しばらく手伝いをして、それで止めてもいいという。本当はその後も、もちろん協力してほしいのだろうが、それを強制しないところも共感がもてた。
そして、同時に、もしかしたら、その世界を救うというのは、自分じゃなく他のだれかと間違えているのかもしれないと思う。そうなったら、アスラは自分に今のように手を差し伸べてくれただろうか。実は間違いだと分かった時でも、一人で生きていけるようになりたい。その思いからリヒトはアスラの頼みに応じたのだった。
昨日の食事も、今日の食事も本当においしかった。それだけでも応じてよかったと思う。そして、手伝いもできることならやろうと思った。食事を食べる分の対価くらいは労働で返したいと思ったからだ。
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