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アスラはリヒトを連れて、一軒の店の前に来た。
この店も、ギルドには及ばないが、なかなかの大きな建物である。
リヒトを連れて、店に入ると、「いらっしゃいませ。」と店員の声が聞こえた。
相も変わらず、なかなかの流行り具合で、店の中は賑わっているようであった。
冒険者向けの道具や薬品、武器や防具、服や靴、宝石などの装飾品がきれいに区切られて並べられている。
一階は冒険者向けの道具や薬品しかないが、それでも多くの冒険者たちが、品定めをしていた。
リヒトは人の多い店内に圧倒されているようであった。
「この店は?」
「この店はクリケット商会という。この大陸のあちらこちらに支店を持ち、豊富な品揃えとコネクションをもつ、大陸随一の店といってもいいじゃろう。」
「これはこれはアスラ様。ご来店、また、光栄なお言葉を頂きありがとうございます。」
振り返ると、一寸の隙もなく執事服を着こなした、初老の男性-ギルが出迎えてくれた。
「ギル殿。随分であったが、息災であったか。」
「はい。おかげさまで。私も、この店も、恙なく過ごしております。」
「この賑わいで恙なくとは、相も変わらず栄えておるようじゃの。」
「これも、アスラ様の御力にてございます。よろしければ、わが主もご挨拶したいとのことですので、ご案内いたします。」
ギルは相も変わらず、にこやかな笑顔を浮かべていた。
「うむ。挨拶もじゃが、この者の要具をそろえたいのじゃ。」
「もちろんご用意させていただきます。どうぞこちらに。」
ギルは一見、虫も殺さぬような笑顔を浮かべながら、自然な流れで自分たちの思惑通りに事を運んでいく。このしたたかさ、抜け目のなさも相も変わらずのようであった。
「リヒト、随分と商人らしい商人じゃが、悪徳ではない。安心してよいぞ。」
わしが言った言葉に、少し困惑しておるリヒト。そして、やはり変わらぬ笑顔を浮かべたままのギルが、別室へと案内をした。
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