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ゲルタは少し優しい表情を浮かべ、リヒト話しかけた。
「なぁ。リヒト、さっき部屋に入ったとき、机があったのが、見えたか?」
「うん。ここのテーブルに来るときには、消えて見えなくなった。」
「あれが、俺の武器の一つだよ。」
「え?」
リヒトは不思議そうに尋ねた。
「俺の数少ない、得意な魔法だ。物を不可視にし、そこに何も無かったかのようにすることができる。俺が許可を与えないものは存在を確認することもできないし、触ることもできない。」
「うむ。いつ聞いても、便利な魔法じゃな。」
「そうだ。いろんな用途がある魔法だ。荷物を輸送する際には、大量の荷を一度に運ぶことができるし、盗賊に盗まれる心配もない。今のように大事な書類や帳簿を隠すこともできる。小さいころは、割ってしまった花瓶や、見つかったら怒られるものを隠すことしかできなかった。今も人を隠すことはできないし、きっとこの能力は戦いになったら、それほど役に立たない。でも、商売という点においては、非常に優れたものになる。
リヒトも、リヒトにしかないものが、きっとあるだろう。それを武器としたらいいんじゃないのか。
その為の準備を俺の店は全力でするから。」
昔にわしが、ゲルダに言ったセリフ。
―――おぬしは父にはなれぬ。そして、冒険者のように剣は振るうこともできぬかもしれぬ。
だが、おぬしは、おぬしの持っている武器がある。それをつかえばよいのではないか。そして、おぬししかできないことで、冒険者を支えることができれば、おぬしは冒険者と共に戦っているということだ。
冒険者に憧れ、自分が剣を持ち魔物と戦うことを夢見ていた少年。わしの占いが、ゲルダの分岐点であっただろう。だが、こやつはあの時の占いの結果を恨んではいないし、今も自分らしく頑張っているのであろう、今の満ち足りた表情を見て、あの時の占いは間違いではなかったのかとうれしく思う。
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