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3.- ASURA -
アスラのリヒトへの印象は、あまりいいものではなかった。
それは、好きや嫌いという意味ではなくて、飢餓が進み細い手足をしていたためだ。
今まで食事を満足にとることができなかったのであろう。今までの住んでいた劣悪な環境が容易に想像できた。
そして、正直、世界を救うどころではないと思った。自分が生きていくのに精一杯であることが見て取れたからだ。自分に余裕がない人間は、周りの人間を助けるだけの余裕もない。
毎日の糧を得るために一生懸命の人間が、他の人間の糧まで確保しようと思わないように。
だが、アスラは隠すことなく正直に話をした。嘘を吐き協力させる事はたやすいが、これから仲間になるとするならば、それは誠実ではないと思ったし、何より自分がそれを良しとできなかったからだ。
そしてその上で、頼み込む。
「おぬしに 今すぐ、世界を救って欲しいとは言わぬ。じゃが、急にこの世界に来て、住む場所も、食事のあてもないのであろう。寝る場所と、食事と、この世界で生きるための情報を提供する。
だからかわりに、その間わしと共に、世界をまわる手伝いをしてもらえないだろうか。ある程度自立できるようになったら、その時にわしと協力をするか、一人で生きていくのかを考えてほしい。わしに協力をしてくれたら、もちろんうれしいが、おぬしが違う選択をしても止めることはしないと約束しよう。
おぬしにしかできぬことなのだ。どうか頼む。」
アスラは頭を下げ頼み込んだ。少しの打算もないといえば嘘にはなるが、これが誠意をこめた精一杯であった。
リヒトはそのまま、しばらく考え込んでいたが、深々と頭を下げ、
「こちらこそ、お願いします。」と答えた。
二人が頭を上げると目があった。
やせ細った顔だが、その眼の奥には優しいまなざしが浮かんでいた。
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