サラリーマンりゅうのすけ 5円があれば

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 取引先を出て、今日は直帰しますと会社に連絡を入れてから、とぼとぼと街を歩いた。こういう日は、思い切って奮発して厄払いじゃ! と、やけくそ気味にぼくの足は百貨店に向いた。12階のレストラン街に、絶品のビーフカツサンドを食べさせる店がオープンしたと、同僚の女の子たちが話していた。じつは無類のパン好きのぼくは、友達を誘って飲みに行く選択肢を捨てて、迷わずビーフカツサンドに◎。  店がある百貨店の近くまで来た。すると前の方を歩いているおじいちゃんが、急によろよろとよろめいて、道路に倒れそうになった。近くを歩いている人たちは、誰も気がつかないのか、そのまま通り過ぎて行くので、ぼくは慌てておじいちゃんのそばへ駆け寄って、御老体の横からその細い体を抱きとめた。だいじようぶですかと声をかけると、おじいちゃん息を切らせながら、ときどきこうなるんです、ご親切にありがとうございますと礼を言って歩きかけた。  ところが口が開いていたのか、おじいちゃんが手に持っていた財布から、じゃらじゃらと小銭が歩道にこぼれ落ちた。あーっと、ぼくとおじいちゃんの口から同時にため息が洩れた。通りがかりのおばさんふたりとぼくとで、小銭を拾い集めておじいちゃんに渡した。かえすがえすもありがとうございますと頭を下げ、おじいちゃんは歩道の端へ行って、しんどそうに片手を挙げた。  あの、タクシーですかとそばに寄ってぼくが尋ねると、おじいちゃん大きく頷いた。ご老体の代わりにぼくがタクシーを拾って、運転手とふたりして、後部座席に無事、おじいちゃんを乗せた。ふうー。
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