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第1話 上り電車
『本日も吾妻線をご利用いただきまして、ありがとうございます。この電車は、十四時三十二分発の高崎行きです。発車まで、今しばらくお待ちください』
古びて、シートも固くなった列車に、車掌のアナウンスが流れる。
ここは、群馬県の一番西側にある、大前駅。待合室があるだけの小さな駅に、三両編成のかぼちゃ電車が止まっている。
開かれた窓から、遠くでなく鳥の声が聞こえてくる。ここには本当に何もないから、遠くの音も、風にのってよく聞こえてくるのだ。この僕が乗っている電車も、日に数本出てるだけの貴重なものだ。それでいても、今日の乗客は見える範囲では、僕と、目も前に据わっている香織だけらしい。
「ねぇ」
ボックスシートの向かいに座っている香織が、沈黙を破る。
「弘樹ってさ、東京のこと、好きなの?」
彼女の目が笑っていない。静かにまっすぐ、こちらをみつめている。
「どうして?」
「弘樹、東京の大学のオープンキャンパスにいってから、……なんていうんだろう……」
すこしうつむいて、なにか言葉を探す香織。彼女が言葉を探しているときは、いつもうつむいている。
「……すこし、明るくなった」
「そうかな?」
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