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「……うん、そんな感じがする」
両手を膝の上でぎゅっと丸めて、香織が顔を上げる。
「今だから言うけどさ、あの日のと弘樹の顔、とても輝いていたもの」
「……」
東京。確かに僕は、あの街が好きである。
夜になってもその火は消えることがなく、電車も朝の四時から動き出す。
でも僕は、それ以上に、この町から出て生活がしたかった。
「ここは……なんにもないんだもの」
「そこがいいんだと私は思うんだけどなぁ……」
窓の外を見ながら、ぼそっと彼女が返す。
日に照らされたホームに人影はなく、本当にこの電車が動き出すのか、不安になる。うるさいエンジンの音が、この電車がまだ生きていることを教えてくれる。
「親ともよく話し合ったよ」
「……うん」
「僕の将来のためにも、あの大学に行くことは必要なことなんだよ」
「……うん」
「……だから、僕はいくよ。東京に」
「……そうだよね」
彼女が僕をまっすぐにみつめる。
「もし、止めるなら、これが最後だと思ったんだけど……弘樹がそこまで本気なら、私は止めない。応援する」
静かではあるが、その口調はすこしとがっている。
「なんでそこまでして、香織は僕を止めようとするの?」
「わからないかな?」
ぐっと彼女が顔を近づけてくる。
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