第1話 上り電車

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「……うん、そんな感じがする」  両手を膝の上でぎゅっと丸めて、香織が顔を上げる。 「今だから言うけどさ、あの日のと弘樹の顔、とても輝いていたもの」 「……」  東京。確かに僕は、あの街が好きである。  夜になってもその火は消えることがなく、電車も朝の四時から動き出す。  でも僕は、それ以上に、この町から出て生活がしたかった。 「ここは……なんにもないんだもの」 「そこがいいんだと私は思うんだけどなぁ……」  窓の外を見ながら、ぼそっと彼女が返す。  日に照らされたホームに人影はなく、本当にこの電車が動き出すのか、不安になる。うるさいエンジンの音が、この電車がまだ生きていることを教えてくれる。 「親ともよく話し合ったよ」 「……うん」 「僕の将来のためにも、あの大学に行くことは必要なことなんだよ」 「……うん」 「……だから、僕はいくよ。東京に」 「……そうだよね」  彼女が僕をまっすぐにみつめる。 「もし、止めるなら、これが最後だと思ったんだけど……弘樹がそこまで本気なら、私は止めない。応援する」  静かではあるが、その口調はすこしとがっている。 「なんでそこまでして、香織は僕を止めようとするの?」 「わからないかな?」  ぐっと彼女が顔を近づけてくる。     
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