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私の言葉に一瞬は明るい顔をされましたが、すぐにまた小さな溜息を吐いて、項垂れます。
心の折れようは簡単には直らなそうです。
「──まだ雨が止むには、少し時間がかかりそうですね」
まだ暗い窓を見て、私は言いました。
「もしよろしければ、採寸を体験されますか?」
「え……採寸?」
「お会いしたのも何かの縁ですから。気分だけでも仕立屋に注文したお客様を体験されては」
私は立ち上がり、作業台からメジャーを取り出しました。
彼女はまだ戸惑っているようです。
「どうぞこちらへ。ああ、ジャケットは脱いでくださるといいですね」
言うと彼女は戸惑いつつも立ち上がってくださいました。
私はハンガーを手に傍へ行き、ジャケットを受け取ります。
夏だと言うのに、これは就職活動で買ったものではないでしょうか……暑いでしょうに。
「よろしければこちらで」
必要ないですが、姿見の前に案内しました。
是非、今のご自分のお顔を見てもらいたくて。
「お好みのスーツはありますか?」
言いながら採寸を始めます。
「そんな……色々あるんですか?」
「ボトムスだって、スカートもあればパンツもありますし。襟の形、胸元の開き具合、ボタンの数、袖の形……こだわればいくらでも」
「そういえば……そうですよね……」
「ああ、でも出版業界では、もっとラフな格好でもいいのでしょうか?」
「ええ……そういう方もいます」
肩幅を測りました、女性らしい小さな肩です。自信のなさが、余計に小さく見せます。
「そういう方は、余裕があって見えますでしょう?」
「はい……素敵です」
「人は生まれながらになんでもできる訳ではありません、戸惑い悩み、勉強して、そして達成できた喜びで成長するんです。それは年老いても変わりませんよ?」
「仕立屋さん……」
すねの長さを測っていますと、パンプスに隠れて靴擦れの痕が見えました。不慣れな靴でついた傷でしょう。
それはもう癒えて皮膚が固くなっています、人もそうやって強くなっていくのではないでしょうか。
スリーサイズはもちろん、裄丈、着丈、首まわりのサイズまで頂きました。
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