黒鬼と派遣社員

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「渉。何か……感じないか?」  問われた松岡は首を捻った。  さっきから感じすぎる程感じているのは死者達の気配。  恐らくは……黒鬼が言っているのは、それ以外の何かについて。  それは理解出来たが、今の松岡には何も感じられなかった。 「お前……本当、亡者以外についてはポンコツだな…………」 「は?」 「もういっその事、亡者専門になった方がいいんじゃないか?」 「いや、だから……俺の専門は元々未浄化霊の保護だって何度も言ってるだろ。んで、何を感じるっていうんだよ」 「…………(あやかし)がこの先に居るんだよ。しかも恐らく妖魔に成り下がったヤツがな」 「は?……はぁ!?」  松岡も思わず驚きの声を上げたが、会話を聞いていた英太も目を大きく見開いて黒鬼を見た。 「マジか……本当に何も感じないぞ…………」 「渉も英太も……と言うよりは、亡者を相手になさる人全般がそうでありなんすけどねぇ……。さっき渉がご自分で仰有っていたではござんせんか。霊の念を理解し、その上で自らの意思を伝えるのだと……。正味な話、これだけの霊相手にそのような真似をしていたら、“他の何か”に気付く余裕なんざありゃしませんでしょうねぇ。わっちや黒は別でござんすよ?元から亡者の念なぞ歯牙にも掛けちゃいやしませんからねぇ」  淡々と軽口を叩くように説明をするのは、先頭をしゃなりしゃなりと歩く三毛猫姿の鈴。  その内容に男3名が「ああ……なるほど」と間抜け面を晒して納得していると、「おや。先遣でありんすかねぇ?妙な輩がおいでなさったようで」と愉しんでいる口調で鈴が前方を見ながら後ろの者達に告げた。 「あ、本当だ。来たな……っていうか、ありゃあ……狸か?でっけぇな」  一行の目に飛び込んできたのは、辺りを漂っている気配とは別の……はっきりと視認出来る人よりも大きな狸の幽体。 「……ん?…………一匹じゃない?」  その狸の後ろから更に複数の影。  それは狐、山犬、(いたち)、猿などなど。  十数体の群れが猛烈な勢いで松岡達に向かってきていた。
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