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「ちょいとお嬢さん」
後ろ向きに転がった英太の遥か上から、先ほどまで猫の発していたのと同じ声色が聞こえてきた。
おや?と思いすぐ横を見れば、そこにあの三毛猫は居なくなっていて……代わりに絢爛な着物の裾が見えた。
「?……っ!?」
下から舐めるように上へと視線を動かしてみれば……豪華な帯、着物の上からでも分かる抜群のスタイル、そして顎や輪郭しか視界に映ってないが、それだけでも透き通った肌が見てとれた。
思春期男子の本能だろうか。
その容姿への期待値が高まった途端、先ほどまで恐怖で軟体動物と化していた下肢に力が宿り、直ぐ様その体を中腰の姿勢まで持っていくと、着物の主の全体像が見える位置まで一気に距離を取った。
「あら、お兄さん。随分と元気になったぁじゃないか」
そう言って微笑みかけてきた英太の脳裏に浮かんだ言葉は「女神!」だった。
自分のボキャブラリーの無さに気付く事も出来ないくらい、食い入るように着物の女を眺める英太。
自分が今までテレビで見て好きだった女優なんて比では無い程の美しさ。
更に着崩した着物から匂い立つ妖艶さ。
目を離せない英太に気づき、女は頬を染める。
「およしになっておくれよ、お兄さん。そんなに見詰められたら穴が開いちまうじゃあないか」
その恥じらう仕草に……英太は完全に堕ちた。
惚けた英太を見て、女は袂で口許を隠しながらチロリと赤い舌を出していた。
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