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霊体の串刺しを肩に担ぎながら空間の裂け目から爽やかに去って行く黒鬼に、心の中で「ええぇぇぇ?」と驚きながら呆然とする松岡と英太。
特に松岡にしてみれば、先程は僅かに分かり合えた気がしたのだが、やはりマイペース過ぎる黒鬼とこれから先無事にやっていけるのかどうか再び疑問が湧き上がる。
思わず眉間に皺が寄る松岡であったが、そこに…………。
「“……え…………え……えぇぇ……ぇぇ…………ぇ?ええ……えええ?……ええぇぇえええ?……えっえっ……ええぇぇ…………”」
不意に鼓膜を撫でる嗄れ声。
これは誰の声なのか。
理解した瞬間、背筋に戦慄が駆け昇る。
血の気が引くと同時に、ぶわっと全身に鳥肌が立った。
覚が真似ているのは確かに心の中で思った言葉。
しかし声と成っては発せられなかった言葉。
それなのに……なぜ!?
何度も繰り返しているのがまた心底気味悪く恐怖を煽る。
狂人の奇行を思わせる、愉しげな色を帯びた濁った嬌声。
まるで笑っているかの様だと英太は思った。
その濁声を聞くだけでもおぞましいのに、更に二人の頭を巡る疑問が不気味さを倍増させてる。
「おや。これはこれは……ほんに心の内が読めるんでござんすねぇ。……むしろ、妖魔と成って得た力でありんすか?面白いねぇ」
山中の森林の中にも関わらず、汚染物質で充満している空気の中に居るのかと思う程に気分の悪くなっていた松岡と英太。
しかしそんな二人を混乱の渦中から引き上げる、凜とした気高い……しかし何とも妖艶な声が響いた。
「まったく情けないったらありゃしぃせんなぁ。英太は致し方無いとして……渉はもちっと気丈夫になった方が良いんでござんせんか?」
そう言った鈴の姿は、男二人の知らぬ内に、三毛猫から一転……艶やかで美しい着物姿の女性へと移り変わっていた。
「“し……せん……な…………ござ……んか…………”」
「おや、覚。ぬしさんもちっとばかりお行儀が悪ぅござんすねぇ。女の口真似なんぞしてては女子衆に嫌われちまいますよ?」
わざとらしく袂で口許を隠しながら眉を顰める鈴。
英太は先刻まで覚に抱いていた怖れを束の間忘れる程、鈴の仕草に見惚れてしまった。
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