黒鬼と派遣社員

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「まぁ……本来は人畜無害……とまではいきやしんせんが、小心者で不器用。人を喰らうのにすらドジばっかりで残念な物の怪のぬしさんが、何で妖魔になんざ堕ちちまったかは知りゃしませんがねぇ…………」  人を喰らうんだったら全然無害じゃねぇよ、と思いながら、松岡は覚に対して語る鈴の事を横目で見た。  そしてこうも思う。  しゃしゃり出て来たは良いが、また何もせずに自分に丸投げしてくるんだろうと。 「とは言えねぇ……妖気を以て霊を貶め傀儡に仕立て上げ、狭間から抜き出て自らの楽しみの為に人を襲うなんざぁやっちゃあいけない事でありんすよ?」 「……………………?」  いつもと微妙に違う鈴の様子に松岡は気付き、首を傾げた。 「ぬしさん、あんた……元は【やまこ】だろ?」 「やまこ?」  聞き慣れない言葉に、今度は英太が首を傾げた。 「やまこ……かく(えん)とも云うねぇ。猿が千三百年以上生きた成れの果てさ。真っ黒な毛に覆われた、女を犯したり人を騙して喰ったりしちまう卑劣で厄介な物の怪なんだけどねぇ……さっきもわっちが言った通り如何(いかん)せん何事にもしくじる事の多い残念な奴なのさ。ほれ、人間にも居るでござんしょ?何をするにも意気地無しの不器用で……だけども欲望だけは人一倍。普段は引き籠もって、欲を吐き出したい時は自分よりも弱っちい輩を襲うような屑野郎が。まぁ……そんなもんと同じでござんすよ」 「……ああ、何か分かります…………」 「……だな。この気味悪さも納得だ。しかし……相変わらずお前の男に対しての意見は厳しいな。女には甘いくせに」 「おや。渉にも英太にもわっちは優しゅうござんしょ?」  人間に喩えられ合点がいった英太と、鈴の辛辣な物言いに頬を引き攣らせる松岡。  その様子を見ながら、口元を袂で隠しころころと上品に笑う鈴。  だが。 「…………で、本題でありんすがねぇ」  目を細めると一転。  鈴はその笑みに妖しさを纏わせた。 「わっちは猫又……覚はかく猿……種族は違えど同じ獣の(あやかし)さね。そいつの不始末って事ぁ……黒に頼まれるまでも無い。わっちが落とし前をつけさせて貰おうじゃないか…………ねぇ?」  そう言った鈴の視線の先には……何かを察知し、完全に太い木の幹に姿を隠した覚が居た。
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