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「ほれ、隠れても無駄でありんすよ?」
そう言って細められた切れ長の双眸。
吊り上がる形の良い艶やかな唇。
どんっ
「っ!?」
途端に、松岡と英太、そして幹の陰に隠れている覚が物理的な衝撃を受けた。
実際に何かがぶつかった訳では無い。
そう感じる程に大気が変動したのだ。
山の清涼な筈の空気が、数多の霊気で覆われているこの『鎮霊の森』。
その中の松岡達が居るこの一帯だけ、妖魔と成った覚の放つ瘴気にも似た邪な妖気が充満していた。
しかし今……その空気が一変した。
厳密には此処いら一帯の妖気の質が変わった。
清冽だが優婉。
全ての生命を飲み込むかの如き存在感と威風。
恰も母性と知性を内包したようなその妖気は、更にそれを放つ張本人の絶対的な自負をも融合させ、生者も死者も関係無く全ての他者を圧倒した。
「おや。お利口さんだねぇ、あんた達」
唖然呆然としていた英太がふと気付く。
恐らくは覚や他の怨霊と距離を置いてこの山に棲んでいた動物達。
それらが次々とこの場所に集結してきている。
栗鼠、狸、鼬、狐、山犬、猪、羚羊、猿、野鳥……果ては熊までが姿を現した。
そして……抗えないのか、はたまた抗う気すら起きないのか……覚もまたその動物達の群れに混じって前へと進み出てきた。
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