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「姐さん!どうしましたかぁ!?」
元気一杯、黒猫猫又の千那。
黒地の着物の裾と黒髪のおかっぱ頭がふわりと揺れる。
そして鈴からの招集が余程嬉しいのか、誇らしげな満面の笑顔で鈴に振り返った。
「急に呼び出しちまってすまないねぇ、千那。ちょっと連れて行って貰いたいのが居てねぇ」
「いえ!姐さんの為ならいつでも……って、姐さん!まさか此岸で妖気を解放しちゃったんですか?一体何が…………」
鈴の妖気に気付いた千那が表情を一変させる。
普段はあまりにも圧倒的で支配的な自身の妖気を、僅かでも漏らさぬよう完全に抑え込んでいる鈴。
そんな鈴がここまでの解放を見せているのだから、これは只事では無いのだろうと千那が思うのも無理からぬ事。
「大した事では無いんよ。ただねぇ……人里離れた山の中、こいつが手っ取り早いかと思ってねぇ、ふふっ」
「あ、本当!ここ、山だったんですね。それに……姐さんの本来の妖気の半分も出してないみたいだし…………。でも私からしたら、姐さんの妖気は大好きなんで、感じられてラッキーです!強くて気高くて、でも優しく温かい……とっても素敵です!」
うっとりとする千那。
微かに頬を紅潮させている彼女に、松岡が恐る恐る尋ねる。
「……これで半分も出してないって言うの?」
「あ、渉さん、こんにちは。そうですねぇ……姐さんが本気出したら多分山一つぐらい完全に支配するでしょうし、範囲内に居る亡者は全て跡形も無く消滅しちゃうでしょうねぇ。なんたって、うちの閻魔様の血圧が急上昇しちゃうぐらいですから!それっって結構凄い事なんですよぉ」
嬉々として鈴の凄さを熱っぽく語る千那の姿に、松岡は頬を引き攣らせる。
「それより千那。この覚を連れて行ってはくれないかぇ?」
「はい!お安いご用です!」
「……何で千那なんだ?妖魔を連れて行くのも獄卒の仕事だろ?」
「おや。獄卒達も忙しい身でござんすよ。そんな彼らを使うのは気が引けるじゃあありませんか」
「その点、私なら大丈夫ですよ!自分の仕事はさっさと済ませますし、第一閻魔様がこっちが忙しくなる程のペースで仕事をバリバリやる筈が無いじゃないですか!」
そう鈴と千那が笑って話すのを、松岡と英太は今ここに居ない閻魔に同情を覚えながら聞いていた。
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