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「あれ?そういえば黒はどこですか?」
一人少ない事に気付いた千那が、周りをきょろきょろと見渡しながら松岡に尋ねる。
「ああ。奴なら悪霊達を焼き鳥にして地獄に連れてったぞ」
「は?焼き鳥?…………ああ、なるほど。分かりました。…………それじゃ早めにこちらに戻しておきますね!」
笑顔でそう言った千那は、動物達の群れに向かって歩いて行く。
「あ、ごめんねぇ君達。ほら、あんたが覚でしょ?おいで」
親しげに猪や熊に話し掛けながら、毛むくじゃらの覚の手を引っ張る。
小さな千那は動物達の中に入ってもやはり小さい。
だが千那よりも随分大きな猛獣達は、黙って千那の為に道を空け……既に心の折れた覚もまた黙って手を引かれて千那に付いて行った。
「……なるほど。この場でのナンバー2は千那だって事をこいつらも分かっているって訳だ」
「そうさねぇ……。渉にしちゃ女子に負けるのは口惜しいかもしれないけどねぇ、閻魔様の秘書官ってぇ肩書きは伊達じゃあ無いって事さ。頭も切れて、腕も立つ。すばしっこさではわっちも負ける程だからねぇ……おっちょこちょいと短気が玉に瑕ってのがまた丁度良い愛嬌でありんすなぁ」
「悔しくはねぇけどな。俺はまだまだひよっこだし、特に妖魔退治を専門にしようとも思ってねぇし、ムツゴロウさんになろうとも思ってないから」
「はて?ムツゴロウ……ですかぇ?」
知らない人物の名前に小首を傾げる鈴。
そしてそんな鈴の何気ない所作すらも悩ましく見える英太。
こんな奇天烈な環境下に身を置きながら、それでも鈴の醸し出す艶めかしさに目を奪われ胸の高鳴りを抑える事が出来ずにいた。
「ほらっ。きりきり歩く!」
手を引っ張られながら、先程千那が出て来た空中の切れ目まで連れて行かれる覚。
その途中、覚が見ていたのは鈴に見惚れる英太の姿。
「“り……りん……さ……ん…………ちょう……か……わ……いく……ね?”」
「「「……はっ!?」」」
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