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鈴が妖気を完全に仕舞い込むと、並んでいた動物達も散り散りに鈴の前から立ち去っていく。
流石の捕食動物達も、緊張から解放されたばかりの今、本来獲物である筈の小動物達を襲う気にはなれないらしい。
自分達の住処へと戻って行く彼らを見送った後、これ以上の長居は無用と松岡は下山を決めた。
元来た道を下りていく三者。
結界のように張り巡らされていた妖気が収束した事で、これまで近寄る事さえ阻まれていた亡霊達が再び松岡達に集まってくる。
「英太、鈴が猫に戻ったからっていつまで凹んでんだ?集中しないと簡単に取り憑かれるぞ」
「え!あ、いや、あ…………はい……」
「……ったく。……って、鈴。お前は笑うな」
「いやぁ、可愛いじゃござんせんか。渉もこれぐらい可愛げがあったらねぇ」
「馬鹿言え」
意気消沈を見抜かれて赤くなって慌てる英太の様子に喜ぶ鈴。
やれやれ……と鼻から溜息を漏らす松岡は、ふと思い出した疑問をまた鈴に尋ねてみる。
「そういえば……鈴。お前、覚に同情してたな?何でだ?」
確かに鈴は言っていた。
同情するべき点もある、と。
「ええ、そうでありんすなぁ……気の毒に思っておりやんすよ」
「え?でも……妖魔って悪い奴なんですよね?」
「おや、英太。人間に置き換えて考えると良いでありんすよ。産まれながらに悪人なんてそうそう居やしないでござんしょ?」
「う……確かに…………」
「堕ちた妖には堕ちるなりの訳ってぇもんが存在するのでありんすよ」
「……訳?」
首を捻る二人に、鈴は抑揚の無い無機質な言葉を投げた。
「まぁ……妖魔が増えているのは偏に、人間の所為でありんす」
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