黒鬼と派遣社員

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「?……どうなさりましたかぇ?」  難しい顔をして立ち止まった松岡の肩で鈴が尋ねると、松岡は口を僅かに動かす。 「鈴……俺…………」 「?」 「……俺ら人間が妖魔を退治する資格なんて有るのかな…………」 「…………は?」  神妙な顔つきで訊いてきた松岡の言葉に、鈴は三毛猫の姿で在っても分かる程に眉を顰めた。 「……何でそうなるんでござんす?」 「え、だって……そうだろ?俺ら人間が妖達の居場所を奪って、それが原因で妖魔に堕ちてっているんなら恨まれて当然だし、それを忌み嫌うなんて勝手じゃないか!」  鈴の方を向いて情けない顔で訴える松岡。  英太もそれを聞きながら、自分も松岡と同意見だと思った。  そしてそれと同時に、人間の非道を説いた鈴がなぜ松岡の気持ちを分からないのだろうかと不思議にも感じた。  そんな男二人に、鈴は一つ溜息を吐く。 「……やれやれ。馬鹿だねぇ、あんた達は。……妖が増えたのも地獄が今のような体制になっちまったのも、元はと言えば人間の所為じゃあないか」 「え?」 「妖の歴史は古ぅござんす。人が地上を支配する前……まだ狭間など無く彼岸と此岸の世界しかござりません頃。この此岸で他の獣衆と仲良ぅ暮らし、その存在は謂わば妖精のようなものであった妖。やがて人間共の台頭によって徐々に身を隠し、終いにゃ閻魔様のご助力の元、新たな世界を創りあげた……それが狭間でござんす」 「だから……人間が悪いって話だろ?そんな大事になって……」 「世の移り変わりでござんすよ。妖が人間と共存出来なかった……それだけの話。そして他生物と隔たりを造り続け、自ら歪んでいった妖は魔が差すようになりんす。身を堕とした妖は妖魔と呼ばれ、元に戻る事も敵わず、彼岸と此岸の秩序を乱す存在へとなった。……本来、この此岸を何者が支配しても構いやしぃせんのですよ。肝心なのは秩序が定まっている事。ですから時世によって、地獄もその体制の在り方を変えていくという訳でござんす」
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