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衝撃でつんのめり、顔から地面に突っ伏す松岡。
強かに顔を土にぶつけながらも、そのぶつかってきたものの正体を松岡は声だけで知る。
「おおっ!渉!待たせたな!今戻って来てやったぜ!」
「…………黒ぉ……お前なぁ!」
立ち上がりざまに振り向き地獄から戻って来たばかりの黒鬼を睨み付ける松岡。
「おっと、随分ご機嫌斜めじゃねぇか。何かあったか?」
「何かあったかじゃねぇよ!お前がぶつかってきたから……っ」
「黒。渉は今、悩んでも仕方ない事をうじうじと悩んでいる最中だったのでありんすよ」
「だあっ!鈴!またお前はっ!」
松岡が黒鬼に弾き飛ばされた瞬間、ひょいと跳んで巻き添えを回避した鈴は、英太の頭で身を丸くしながら笑う。
黒鬼に自分の中の葛藤を知られるのが妙に恥ずかしい気がした松岡は、そんな鈴に向かって怒鳴った。
「ああ、何だ。只の八つ当たりか」
「ち、違っ……」
「いや、いいぜ。何しろお前は人間だからな。人間っつうのは俺らには理解出来ない程に悩んだり感情を爆発させたりするもんなんだろ?」
「っ……………………」
「実際、お前に怒鳴られたりした所で痛くも痒くも無ぇしな。気が済むならそうしろ。そんで早く帰ろうぜ?腹が減った。渉の母ちゃんの飯が食いてぇ」
「…………っ……もういいよ!」
八つ当たりする気も失せた。
人の気持ちを、妖である鈴や黒鬼が共感出来ないのがよく分かった。
そしてさっきから完全に下に見られているのにも苛立ったが、事実今の松岡はこの両者に全く及びもしない。
別次元、別世界の存在……それを実感した松岡は、その後一度も鈴や黒鬼の方を見る事無く早足で駐車場へと向かったのだった。
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