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M市とT市の狭間に在る四十四谷ダム。
昼間は車で飛び回る営業マンの良いサボり場となっているが、夜になると全く人気が無くなる辺鄙な土地。
そんなダムの入口から僅か200メートル程の位置にひとかたまりの集落が出来ており、現在十数世帯が暮らしている。
その内の一件に居を構える田中家の次男、英太はその日の夜、飼っている白い小型犬を散歩させていた。
名前はシン。
自分が親にねだって、知り合いから生まれたばかりの子犬を貰ったのだが……それは小学5年の時の話。
今や中学2年になった英太は毎日部活で忙しく、飼い始める時に約束した散歩もサボりがち。
だが、今日は初夏の夜風が気持ち良かったこともあり久々にリードを握ったのだった。
いつもの散歩コースということで、家から上り坂を少し歩き、ダムの手前に辿り着く。
そこで真っ直ぐ行けばダムの天端なのだが……左右にもコースが分かれており、右に行けばダムが管理している公園へと続く急な階段道、左へと下って行けば殆ど整備されていないダムの駐車場だ。
暗い山道を登るつもりも無い英太は、左に少し下がった場所にある駐車場を見下ろした。
が、何台かの改造車がエンジンを掛けた状態で止まっていて物騒な気がしたので、結局真っ直ぐに進もうと決めた。
しかし、歩き出した英太の握るリードが引っ張られる。
その感触に「おや?」と思い振り返れば……愛犬のシンが、右手の階段を少し登った辺りを気にしながら動こうとせずに踏ん張っていた。
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