猫と派遣社員

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「シン?」  いくら人気が無いとはいえ、誰かに一人で喋っているのを聞かれたら恥ずかしい年頃である。  声を潜めながら呼び掛けるも、当のシンはそれを無視するかのように鼻をすんすんと鳴らしている。  何か獣でも居るのかな?  唸り始めたシンを見て英太はそう思った。  狸や鼬ならばよく出るし、雉も居ればたまにカモシカも見掛けた。  そういったものが相手なら、シンも本能として執着してしまうものだ。  英太も何が居るのか見てみようとシンの側にしゃがみ込み、シンの目線で階段の奥の暗闇へと目を凝らした。 「?」  何か確かに揺れ動いた気がした。  しかしあまりの暗さにぼんやりとしか見えない。  ぼんやりとした…………白い影しか……。 「ひっ!?」  英太が短い悲鳴を上げたのは……その白い影が、僅かに人の形に見えたからであった。  思わずその場に尻餅を突いてしまった英太。  しっかりとリードを手首に(くぐ)らせていなければシンを自由にしてしまう所だった。  英太は中腰程度まで立ち上がると、覚束無い手で急いでリードを手繰り寄せながらシンを抱え上げた。  とにかく早くここから立ち去らねば……もはや英太の頭の中はその事でいっぱいだった。
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