猫と派遣社員

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 しっかり者のようで、その本質は気まぐれ。  後先を考えない行き当たりばったりの快楽主義。  まだ相棒となって2ヶ月だが、松岡は出来れば早い内に鈴とのコンビを解消したかった。  しかし、何と言っても相手は三百年以上を生きている猫又。  片や、この春に派遣登録したばかりの新人。  派遣先会社の【彼岸此岸(ひがんしがん)コンサルタンツ】に申し立てた所で、最近の若い奴は根性が足りないと思われるのがオチ。  ならば派遣元に言い募っても良いものだが……それが出来ない事情が松岡にはあった。 「旦那ぁ、何て目でわっちの事を見てんのさ。良い男が台無しでありんすよ。ほら、こちらのお嬢さんは笑ってくれてるじゃあないですか。  面白かったかい?色々すっきりしただろ?」  心にも無い世辞ほど神経を逆撫でする。  ムッとした表情を浮かべる松岡だったが、確かに鈴の言う通り祐実の霊気には喜色が色濃く出ていた。  それが阿部に会えた嬉しさからなのか、それとも鈴の驚かし方が面白かったからなのかは松岡には判別出来ない。 「……分かったよ!とりあえず……気分が良くなってる今、祐実さんには成仏してもらうとしよう。  それと……鈴。いつまでも旦那は止めろ。俺はお前の主人でも何でもない。変な誤解を生みそうだろうが」 「あら!嫌ですよ、旦那ったら。実際旦那のお家で飼って頂いてるじゃありませんか。 まぁ、別に呼び方なんざ何でも構わないんですけどねぇ……ねえ、(わたる)?」  多少媚びたような名前呼びに、松岡の二の腕に鳥肌が走る。  それをさも可笑しそうに、袂で口を隠してケタケタと笑う鈴であった。
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