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猫又に続く新たな妖怪の登場。
だが朧車の名前も姿も知らない英太は、その大きな着地音に肩を跳ね上がらせた後、そろりと振り返った。
「わっ!」
そこに居たのは一台の人力車。
だが、それだけで幽霊にも猫又にも慣れてきた英太がここまで驚く筈も無い。
しかし……その人力車の異形は、英太の想像を絶するものだった。
車輪は木製。
持ち柄も木製。
台座の部分には、黒布の覆いが張ってある。
人力車には人が座る為の台座が据え付けられている。
正面に回れば、覆いの中にその台座が見えるのが普通…………なのだが、英太の目にはその見える筈の台座は映らなかった。
代わりに英太の目に映るもの。
それは…………巨大な…………人面。
ざんばら髪に麿眉。
一重の瞼が重く乗っかった三白眼。
異人のように高い鼻に、薄く青ざめた唇からは大きく鋭い牙が上下にはみ出している。
通常サイズでも恐ろしい面相が、覆いの空いている部分を完全に塞ぐ程に目一杯広がっているのだ。
しかも薄気味悪い笑顔を浮かべてギョロリと目を動かしているものだから、視線がぶつかった途端に英太が短い悲鳴を上げたのも仕方の無い話であった。
「やぁ、朧車。いつもの事で悪いがこの人を乗っけてってくれないか」
松岡は祐実の手を取っている逆の手を朧車に向かって上げた。
随分と気さくな態度。
挨拶もそこそこに手短に用件を伝える松岡を見て、英太はある事に気がついた。
松岡に手を握られていた祐実の、その纏う霊気が……何処か清浄なものへと変わっている様子だったのだ。
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