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「やっ……べぇ!やっぱりかよ!」
慌ててダッシュする松岡。
「なるほどねぇ……普段は同じ時、同じ場所でもあの世とこの世の空間は異なっているもの。
なのに英太があいつらに持っていかれようとしているって事ぁ…………」
「ああ!英太は完全に俺達と同じ“狭間”の住人になっちまってる!…………って、何で走ってる俺と同じ速度なんだよ!お前は!」
「ふふんっ。何たって猫又でござんすからねぇ」
「何でも有りかよ!」
全力疾走と同じ速さでしゃなりしゃなりと歩く鈴を睨みつつ、松岡は英太の元へと駆け寄った。
英太はシンを守るように抱き上げながらも、数多の霊体に腕や脚を引っ張られていた。
足を踏ん張って抵抗しているが、天端の欄干へとズルズルと引き摺られていっているようだ。
シンは自分を抱く英太の腕に前脚を掛けながら、甲高い声でそれら霊体を牽制する。
しかし……英太の抵抗も、シンの牽制も、まるで効果は薄く……更に英太を引き摺る手は増え続けていた。
あ……もうダメかも…………。
英太の気力と脚力が尽きようとしている、その時。
「おいおい、水死体共。誰を勝手に仲間に誘ってるんだよ」
英太がその声を聞いたと同時に、目の前に生身の腕がにょきっと現れた。
「っ!?」
その生身の手が、英太の腕を引っ張っている青白い濡れたような手を掴むと……瞬間、その霊体の腕から陽炎のように霊気が立ち昇った。
英太は驚きながらも自分を何処ぞに連れて行こうとしていた手から力が抜けたのを感じると、生身の腕の持ち主を確認した。
「…………松岡さん」
「渉で良いよ。悪かったな、ちょっと巻き込み過ぎたみたいだ。お前もシンも」
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