猫と派遣社員

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 巻き込み過ぎた?  その言葉の意味を確認する間も無く、松岡は今しがたやってみせたように英太の体に引っ付いている手を片っ端から触っていく。  すると次々と霊気が立ち昇り、英太の体も自由になっていく。 「松……渉さん、これって…………」 「ああ、浄化してるんだよ」  身の回りが煙のような、蒸気のようなもので溢れ返る。  しかし英太がそれを吸い込んでも、匂いも無ければ噎せ返る事も無かった。 「俺の特異体質でな、触れるだけでこの世に留まっている霊の未練や怨みを飛ばす事が出来る。  ただ……こいつら…………」 「?」  次から次へと浄化していく松岡の顔に、少しずつ疲労の色が広がっていく。 「そうだねぇ……よく聞く話ではありんすけど、どうやらこのダムも自殺の名所ってやつみたいだねぇ」  松岡の奮闘ぶりを横で楽しんでいた鈴の、沁々(しみじみ)とした声が聞こえてきて、英太はそっちに顔を向ける。  自分を掴んでいた手は、その半分以上が力を失いふわりとした霊魂として漂っている。  英太は割と自由になってきた自身の体に安堵しつつ、鈴の話に耳を傾けた。 「確かに渉の能力は凄いんだけどねぇ……まぁそれなりに気力体力を消耗するもんなのさ。しかも相手の負の霊気が強ければ、その分大変になる。  さっきから立ち昇っている霊気がその浄化された負の霊気に当たる訳だけれど……まぁ半端な量では無いようでござんすねぇ」
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