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「ひぃあああぁぁ!」
突如、裏返った素っ頓狂な悲鳴が英太の口から上がった。
家にダッシュで帰ろうと、腕の中で暴れるシンを抱えながら踵を返した時。
目の前に若い男が立っていたのだ。
心臓と目玉が飛び出そうになったのは、本人にしてみたら決して大袈裟ではない。
これ程驚いたのは13年生きてきて初めての経験だった。
魂が抜けたかと思う程に頭の中は真っ白だ。
微かに後ろを気にしながらも、英太の体は力という力が抜けていくのを感じていた。
「……あの…………」
目の前の男に声を掛けられて、力が抜けた筈の肩が瞬時に緊張して跳ね上がる。
「……大丈夫ですか?」
心配……というよりは怪訝な表情を見せる若い男を見て、英太の顔は一気に熱くなった。
「だ、だだ、だいひょうぶれす!」
呂律が回らない。
より一層冷めた目で見てくる男の視線に耐えられなく、英太は泣きそうになった。
そんな英太を不憫に思ったのか、震える腕の中に居たシンが首を伸ばして英太の顎をペロリと舐めた。
「……シン…………」
温かなシンの舌触りに、僅かに平静を取り戻した英太だったが……決して落ち着いていられる状況ではない。
背中の向こうに居る筈の“あれ”の事を考えるとまた恐怖とパニックが襲ってくる。
とりあえず逃げなきゃ。
そう思い、若い男の脇を駆け抜けようと、英太は震える足に力を籠めた。
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