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「まったく、男のクセにギャンギャンギャンギャンと……子犬のように吠えなさる…………」
「何だとっ!」
「渉が物の怪の類いを忌み嫌っているのは充分承知していますがねぇ……それでもそれが“お仕事”でござんしょ?だったらこんな事でガタガタ言ってないで、早く本分を全うしたら如何でありんす?むしろ……こっちが本来の目的ですしねぇ」
「…………ぐっ……」
齢三百年の猫又と、たかだか18の若僧。
どうにも貫禄負けの様相が色濃い松岡は歯噛みをする。
元々言い争いで勝てる相手では無い事は重々承知していたのだが、それでも言わなければ感情が収まらなかったのだ。
「……それとですね、渉」
「?」
少し声のトーンを落とし、悲しそうに目を伏せた鈴。
松岡は怪訝な表情でその様子を見つめる。
「……確かにわっちは猫又。少しばかり人間と感覚の違う所もありんす。……ですがね、わっちにも心が有るんでさぁ。慕う男にあんまり無下な言い様をされれば、流石のわっちも傷付いちまいますよ…………」
そう胸の内を雫すと、鈴は目尻に溜まった涙を袂で拭った。
不審なものを見る目つきだった松岡は、その涙にギョッとする。
鈴と相棒になって早2ヶ月。
鈴の涙など見た試しが無かったのだ。
「……っ…………そ、そうだな。……悪かったよ、言い過ぎた」
ばつの悪い様子で目を反らしながらも謝る松岡。
普段から鈴に雑言を吐いている松岡の、初めての謝罪だった。
「…………分かってくれれば良いでござんすよ」
それでも悲しげに目を伏せた鈴は、目元を拭う袂で口許も隠すと…………赤い舌を出してニヤリと笑った。
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