猫と派遣社員

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 だからあの場に置いてきた阿部も、狼藉を働いていた若者達にも祐実が見えた。  英太に至っては、今さっきダムの底に引き摺り込まれそうになった。  そう……それもこれも全てはこの二人が側に居たから。  ……とんだとばっちりじゃないか。  唖然とした英太は言葉も出ない。  この人達さえ来なければ、今頃とっくに家に帰って風呂にでも入っていただろう。  この人達さえ来なければ、こんな怖い目にも遭わずにテレビを見て笑っていただろう。  何の目的でこんな所に来たかは知らないが、間違いなくこの人達のせいで平穏が崩れた。  そう思うと、さっきまでは感じていなかった恨みがましい感情が沸々と湧いてくる。  睨む……とまではさすがに出来なくとも、不審の色が入り雑じった視線を英太は松岡に向けた。  …………鈴に対しては、そんな目を向ける度胸なんて無かったが。  そんな英太の視線に気付いた松岡は、バツが悪そうに頭を掻いた。 「あ……あ~…………まぁそういう訳だ。英太、悪かっ…………っ!英太っ!?」  それは松岡が一瞬目を離した隙。 「うわぁ!?」  突然欄干の上から伸びてきた手に体ごと掴まれた英太は、釣り上げられた魚のように宙を舞った。
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